私は、青少年に、仲間とのチームワークが人生には必要だという体験や、自然の中で生かされているということを体感して分からせる教育が海でできると考え、人間教育としての海洋教育を1979年〜2004年の間、高専教育の中で実施しました。私が定年退職した今でも、引き継がれて実施されています。内容の詳細は別の機会に紹介したいと思っています。成果は学生の感想文に見ることが出来ます。「泳げたが流されて体力の限界だった」、「自信が芽生え」、「はじめてクラスがひとつになれた」、「他ではできない貴重な体験だ」、「座学では得られない現実感が得られる」、「高所恐怖症なのでデッキに立つと足がガクガク震えた」、「無理だと思っていたことが出来た達成感が忘れられない」、「自然の力の大きさや仲間と一緒にいる心強さを感じた」と言っています。こういう成果は、ほぼ毎回同じ傾向を示していました。
私は、漕艇部顧問としても、海洋教育の視点から長い間指導をしてきました。カッターレースでは、クルーの息が合ってこそカッターは海上を滑るように進み成果も出ます。海では「運命共同体」という意識が共有されます。また、大自然に抱かれ、風の力だけで操るヨットの性能目一杯に大海原をかけ抜けるとき、人間はいわば「自然と一体になる」という感覚を覚えると思います。このとき、海を「場所」ではなく、「相手」と感じるようになり、海に親しみを感じ大切にしようと思うようになります。また、子供が母親の表情を読むように海がこれからどのように変化しようとしているのかを察知し、それを信じて自分の身を投げ出して海に精一杯対応します。そうしないと大変なことになります。海も一変して、怖い存在となるからです。このように、海が人間にもたらす教育性は、自然と人間、人間と人間の正常な関係、緊張感、行動力、集中力、協調性、謙遜、遵法精神等であると思われます。